「体を温める食べ物・冷やす食べ物」には科学的根拠があるのか?

食事誘発性熱産生や温冷感と、伝統的な温性・寒性の食品分類を分けて科学的に考えます。

公開 2026/8/12 確認 2026/8/12 読了 7分 初級 執筆: 知識図書館 編集部

この記事の結論

  • 食事による熱産生は実在し、栄養素の構成によって大きさが異なります。
  • 温冷感、皮膚温、血流、熱産生、深部体温は同じ指標ではありません。
  • 伝統的な温性・寒性の分類全体が、現代生理学で実証されたわけではありません。

ショウガは体を温める。
キュウリは体を冷やす。
根菜は体を温め、夏野菜は冷やす。

昔から、食べ物を「体を温めるもの」と「体を冷やすもの」に分類する考え方があります。

特に東洋医学や健康情報ではよく見かけます。

では、本当に食べ物には人間の体温を上げたり下げたりする性質があるのでしょうか。

結論:食べ物によって熱産生への作用は違う。ただし「温性・寒性」という分類がそのまま科学的に証明されたわけではない

体を温めるという表現を深部体温、皮膚温、血流、熱産生、温冷感に分けた図
図1 「体を温める」には異なる現象が含まれる

まず重要なのは、

食べることで体内の熱産生が変化すること自体は事実

ということです。

人間は食べ物を消化・吸収・代謝するときにもエネルギーを使います。

これを、

食事誘発性熱産生(DIT:Diet-Induced Thermogenesis)

と呼びます。

食事による熱産生は、一般に1日のエネルギー消費の約10%程度を占めるとされます。

つまり科学的にも、

「何を食べても体への熱作用はまったく同じ」ではない。

これは確かです。

タンパク質はかなり「熱を作る」

脂質、炭水化物、タンパク質の食事誘発性熱産生のおおよその範囲を比較した図
図2 栄養素によって食事誘発性熱産生の目安は異なる

摂取したエネルギーのうち、消化・代謝に使われる割合は概ね、

  • 脂質:0~3%
  • 炭水化物:5~10%
  • タンパク質:20~30%

程度と報告されています。

例えば100kcal分のタンパク質を摂っても、その処理だけでかなりのエネルギーを使います。

この意味では、

肉や魚などタンパク質の多い食事は、熱産生を増やしやすい

と言えます。

これは「体を温める食材」という昔ながらの分類とは別に、かなり明確な生理学的現象です。

唐辛子は本当に体を温める?

唐辛子の辛味成分、

カプサイシン

も面白い例です。

カプサイシンはTRPV1という受容体を刺激し、交感神経系などを介してエネルギー消費や熱産生に影響します。

実際、唐辛子を食べると、

「熱い」
「汗が出る」

という非常に分かりやすい反応があります。

ただし汗をかけば、その後は蒸発によって体表から熱が失われます。

つまり、

「温かく感じる」と「深部体温がずっと高くなる」は別

です。

ショウガは?

ショウガも「体を温める食品」の代表格です。

ショウガ類の成分については、エネルギー消費や熱産生との関係が研究されています。ただし、小規模試験で作用を示唆した報告がある一方、無作為化試験で安静時エネルギー消費の増加が確認されなかった例もあり、条件を越えた一般化はできません。

したがって、

「ショウガには生理的作用がまったくないのに、昔の人が勝手に温かいと決めた」

というほど単純ではありません。

一方、

ショウガ=温
キュウリ=冷
大根=温

という伝統的分類すべてが、現代生理学で体系的に実証されているわけでもありません。

「体を温める」という言葉には最低4種類ある

この話を難しくしている最大の原因です。

私たちが「体が温まった」と言うとき、

  1. 深部体温が上がった
  2. 皮膚温が上がった
  3. 手足への血流が増えた
  4. 温かいと感じた

のどれを指しているのか分かりません。

さらに、

代謝による熱産生が増えた

という第五の意味もあります。

これらは同じではありません。

例えば血管が拡張すると手は温かく感じても、外へ熱を逃がしやすくなることがあります。

逆に皮膚血管が収縮すると手足は冷たくても、体内の熱を保持している場合があります。

ではキュウリや夏野菜は「体を冷やす」?

水分の多い食品を冷たい状態で大量に摂れば、物理的に体へ冷たい物質が入ります。

これは当然、一時的な熱移動を起こします。

しかし、

キュウリという植物そのものに特殊な「冷却属性」がある

という話とは別です。

「夏野菜だから体を冷やす」「寒い地方の食材だから体を温める」という分類を、そのまま現代医学的な体温変化と結び付ける強い根拠はありません。

結局、「温める食べ物・冷やす食べ物」はデタラメ?

完全なデタラメ、と切り捨てるのも正確ではありません。

食べ物によって、

  • 食事誘発性熱産生
  • 自律神経活動
  • 血流
  • 発汗
  • 消化
  • 温冷感

が異なること自体は事実です。

しかし、

伝統的な「温・冷」の食品分類が、そのまま体温を上下させる科学的分類である

とは言えません。

この雑学の面白いところは、

昔の経験則の中に実在する生理現象が混ざっている一方、それを説明する言葉が現代科学とは違う

ところでしょう。

更新履歴

  • 2026/8/12:系統的レビューとヒト試験を確認して初版公開。

参考資料

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