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NASはNetwork Attached Storage、つまりネットワークにつながったストレージです。
「写真を家族で共有したい」「PCを自動バックアップしたい」「動画をテレビから見たい」といった用途では非常に便利ですが、選び方を間違えると、
- 容量が足りない
- 転送速度が遅い
- RAIDを組んだのにデータを失う
- CPUが弱くアプリが重い
- 10GbEを買ったのに100MB/sしか出ない
といったことが起こります。
NASは単なるHDDケースではありません。ストレージ・ネットワーク・小型サーバーの三つを一体化した機器です。
1. NASと外付けHDDは何が違う
外付けHDDはUSBで1台のPCへ直接つなぐのが基本です。
NASはLANへ接続し、複数端末からアクセスします。
外付けHDD
- 安い
- 単純
- USB接続したPC中心
- 高速なUSB接続なら速度を出しやすい
NAS
- 家中のPC・スマホ・テレビからアクセス
- 24時間運用可能
- RAID
- 自動バックアップ
- 写真管理
- 監視カメラ
- Docker/VM
など、サーバー機能を持てます。
2. 1ベイ・2ベイ・4ベイは何が違う
「ベイ」はHDD/SSDを何台入れられるかです。
1ベイ
安価ですが、HDD故障時に冗長性がありません。
2ベイ
家庭向けで最も使いやすい構成。
RAID1で同じデータを2台へ保存できます。
4ベイ以上
RAID5/6/10などを使いやすく、
- 大容量
- 高性能
- 拡張性
に優れます。
ただし本体価格・消費電力・HDD費用も増えます。
3. RAIDとは何か
RAIDは複数ドライブを組み合わせて、
- 容量
- 速度
- 冗長性
を調整する仕組みです。
RAID0
複数HDDへデータを分散。
容量は合計。
例: 8TB × 2台 → 約16TB
速度は上げやすいですが、どちらか1台が壊れると全体を失う可能性があります。
家庭の大切な写真保存には通常向きません。
RAID1
同じデータを2台へ保存。
8TB × 2台 → 実効約8TB
1台故障しても運用を継続できます。
RAID5
3台以上で使用。
1台分を冗長性に使います。
8TB × 4台なら概念的には、
8TB × (4 − 1) = 24TB
程度がデータ領域になります。
1台故障まで耐えられます。
RAID6
2台分を冗長性に使います。
8TB × 4台なら概念的には、
8TB × (4 − 2) = 16TB
程度。
同時2台故障まで耐えられます。
RAID10
ミラーとストライピングを組み合わせます。
4台で容量は概ね半分。
性能と冗長性の両立に向きます。
4. RAIDはバックアップではない
ここが最重要です。
RAID1で2台に同じデータが入っていても、
- 間違って削除
- ランサムウェア
- NAS本体故障
- 落雷
- 火災
- 盗難
- ファイルシステム破損
では、両方同時に失うことがあります。
RAIDは主にドライブ故障時に止めないための冗長化です。
バックアップは別に必要です。
5. 3-2-1バックアップ
代表的な考え方が3-2-1です。
- データを3コピー
- 2種類以上の媒体
- 1コピーは別場所
例えば、
- PC本体
- NAS
- クラウド
のようにします。
家族写真など失えないデータでは、NASだけで完結させない方が安全です。
6. TB表記と実際の表示容量が違う理由
ストレージメーカーは10進法で、
1TB = 10¹²byte
と表記します。
一方OSでは2進系表示を使う場合があり、1TiBは、
2⁴⁰byte
です。
そのため8TB HDDがOS上で約7.27TiB相当に見えることがあります。
さらにNASでは、
- RAID
- ファイルシステム
- システム領域
で実効容量が減ります。
7. NAS向けHDDとは
NAS向けHDDは一般デスクトップHDDに比べ、
- 長時間稼働
- 複数台振動
- RAID運用
- エラーリカバリ特性
を想定した設計が多いです。
「NAS向けだから絶対壊れない」わけではありませんが、24時間稼働用途では合理的です。
8. 5400rpmと7200rpm
HDD回転数が高いほど一般に、
- 連続転送
- アクセス性能
で有利になりやすいです。
一方、
- 消費電力
- 発熱
- 騒音
も増えやすい傾向があります。
NASではネットワークが先にボトルネックになることも多いため、回転数だけで選ばない方がよいです。
9. 1GbEではなぜ100MB/s前後で止まるのか
1GbEは1Gbpsです。
byteへ直すと、
1Gbps ÷ 8 = 125MB/s
理論上限は125MB/s。
実際にはEthernet/IP/TCP/SMBなどのオーバーヘッドがあるため、実ファイル転送では100〜115MB/s前後で頭打ちになることが多いです。
つまりHDDが200MB/s出せても、1GbEならネットワーク側が先に詰まります。
10. 2.5GbE・5GbE・10GbE
理論値は、
| 規格 | 理論bit速度 | byte換算 |
|---|---|---|
| 1GbE | 1Gbps | 125MB/s |
| 2.5GbE | 2.5Gbps | 312.5MB/s |
| 5GbE | 5Gbps | 625MB/s |
| 10GbE | 10Gbps | 1250MB/s |
実効はこれより低くなります。
2.5GbE
家庭用NASで非常に使いやすい帯域です。
単体HDDでも1GbEを超える速度が出るため、性能差を感じやすいです。
10GbE
SSD NASや複数HDD RAIDでは意味があります。
ただし、
- NAS
- スイッチ
- PC NIC
- ケーブル
すべてが対応して初めて有効です。
11. NASのCPUは何に効く
単純なファイル保存ならCPU性能はそこまで要りません。
しかし、
- 写真AI分類
- 動画トランスコード
- 暗号化
- Docker
- VM
- 複数アプリ
では差が出ます。
NASは「ストレージ」ですが、上位機は小型サーバーに近いです。
12. メモリ容量
一般的な家庭用途なら2〜4GBでも成立します。
しかし、
- 多数アプリ
- Docker
- VM
- 大量写真データベース
では8GB以上が有利になります。
増設できるNASなら将来性があります。
13. ハードウェアトランスコード
動画を再生端末に合わせて、
- 解像度
- bitrate
- codec
を変換する処理です。
CPUだけで行うと負荷が高いため、GPU/Media Engine等でハードウェア支援するNASがあります。
ただし家庭内再生で端末側が元動画codecを直接再生できるなら、トランスコード不要です。
14. 写真保存用途
重視するのは、
- RAID1以上
- 自動スマホバックアップ
- サムネイル生成速度
- 顔認識/検索
- クラウド同期
- 外部バックアップ
です。
写真枚数が数十万になるとCPU・メモリ差も効きます。
15. 動画保存用途
4K動画では1本数十GBになることがあります。
重要なのは、
- 容量
- 有線速度
- codec互換
- TV/スマホアプリ
です。
高bitrate動画を複数台同時再生するなら2.5GbE以上が有効です。
16. PCバックアップ用途
Windows/Macのバックアップ先として使う場合、
- 自動世代管理
- スナップショット
- ランサムウェア対策
- 容量制限
を確認します。
バックアップ先そのものを常時書込み可能にしていると、マルウェア被害がNASまで及ぶ可能性があります。
17. 監視カメラ用途
24時間録画では大量書込が発生します。
重要なのは、
- 対応カメラ数
- ライセンス
- 専用アプリ
- HDD耐久性
- 保存日数
です。
例えば8Mbpsカメラ4台なら合計32Mbps。
1日あたり、
32Mbps ÷ 8 × 86,400 ≒ 345,600MB
約346GB/日です。
30日なら約10TB級になります。
18. Docker・VM用途
ここからNASはサーバーになります。
必要なのは、
- x86/ARM
- CPUコア
- RAM
- SSD
- 2.5/10GbE
です。
仮想マシンを本格運用するなら4GB RAMでは厳しい場合があります。
19. 消費電力と常時稼働コスト
NASは24時間稼働することが多いため、数W差でも年間では積み上がります。
例えば20W常時なら、
20W × 24時間 × 365日 = 175.2kWh
です。
30円/kWhなら年間約5,256円。
HDD台数が増えると待機時消費も増えます。
20. RAIDリビルド
HDD故障後に交換ディスクへデータを再構築する処理です。
大容量HDDでは数時間〜数十時間かかることがあります。
リビルド中は全HDDへ高負荷がかかります。
古いHDDが同時期に故障するリスクもあるため、重要データは事前に別バックアップを持ちます。
21. UPSは必要か
停電時に突然電源が落ちると、
- 書込み中データ
- ファイルシステム
- RAID
へ影響する可能性があります。
UPSとNASをUSB/ネットワーク連携し、停電時に安全シャットダウンできると安心です。
22. どの構成を選ぶか
家族写真・PCバックアップ
- 2ベイ
- RAID1
- 4〜8TB×2
- 1GbEまたは2.5GbE
- 外部バックアップ
動画・複数PC
- 4ベイ
- RAID5/6
- 2.5GbE以上
クリエイター
- 4ベイ以上
- 10GbE
- SSD cacheまたはSSD volume
- 大容量RAM
Docker/VM
- 高性能CPU
- 8〜16GB以上RAM
- SSD
- 2.5/10GbE
23. 過剰性能になりやすいもの
10GbE
PC側が1GbEなら意味がありません。
4ベイRAID6
写真数百GBだけなら過剰な場合があります。
高性能CPU
ファイル保存だけなら持て余します。
24. 結局どこを見る?
①データ量 → ②失ってよいか → ③必要ベイ数 → ④RAID → ⑤ネットワーク速度 → ⑥CPU/RAM → ⑦バックアップ → ⑧UPS
の順です。
NAS選びで最も重要なのは「何TB入るか」ではなく、データをどう守り、どの速度で使いたいかです。
購入直前チェックリスト
- 1/2/4ベイの違いを理解した
- RAID容量を計算した
- RAIDをバックアップと誤解していない
- 3-2-1バックアップを検討した
- HDDのTB表記と実効容量差を理解した
- 1GbEの実効上限を理解した
- 必要なら2.5/10GbEを選ぶ
- PC/スイッチ側も同じ速度に対応する
- 動画トランスコードが必要か確認した
- Docker/VMならCPU/RAMを増やす
- 監視カメラなら1日書込量を計算した
- 常時稼働消費電力を確認した
- UPS連携を検討した
参考資料
- SNIA, RAID and storage fundamentals
- IEEE 802.3 Ethernet standards
- 各NASメーカーのRAID/バックアップ技術資料