地球の水はどこから来たのか?――海ができるまでの46億年
地球の海は彗星が運んだのか、それとも地球形成時から水を持っていたのか。D/H比、隕石、脱ガス、初期地球から現在の有力像を整理する。
この記事の結論
- 地球の海は彗星が運んだのか、それとも地球形成時から水を持っていたのか。D/H比、隕石、脱ガス、初期地球から現在の有力像を整理する。
- 惑星科学の主要な仕組みと、よくある誤解を分けて理解できます。
- 現在分かっていることと、まだ科学的に確定していないことを区別して解説します。
地球の水はどこから来たのか?――海ができるまでの46億年
地球表面の約7割は海に覆われている。
生命も水から始まった可能性が高い。
では、この膨大な水はどこから来たのだろうか。
「彗星が地球へ衝突して水を運んできた」という説明を聞いたことがあるかもしれない。
しかし現在の理解は、もっと複雑である。
地球の水は一つの供給源だけから来たのではなく、地球形成時に取り込まれた水、内部から放出された水、水を含む小天体から運ばれた水などが組み合わさった可能性が高い。
地球ができた場所は暑すぎた?
約46億年前、若い太陽の周囲にはガスと塵からなる原始惑星系円盤があった。
微粒子が衝突・成長し、微惑星、原始惑星へと成長して地球が形成された。
太陽に近い領域では温度が高く、水が氷として存在しにくい。
そのため昔は、地球は乾いた岩石からでき、後から外側の彗星が水を運んだというイメージが強かった。
しかし近年は、太陽に比較的近い領域で形成された岩石質物質にも水素や含水鉱物が存在し得ることが分かり、単純な「最初は完全に乾燥していた地球」という像は見直されている。
水は海として運ばれたわけではない
宇宙から水が供給されたとしても、大量の液体水を積んだ天体がそのまま海を作ったという意味ではない。
水は、氷、含水鉱物、水酸基、有機物中の水素などさまざまな形で原始地球へ取り込まれ得る。
地球内部に取り込まれた水や揮発性物質は、火山活動やマグマからの脱ガスによって大気へ放出される。
地球表面が冷えると水蒸気が凝結し、液体の水として蓄積できるようになる。
初期地球に海はいつできたのか
地球誕生直後は巨大衝突が多く、表面が大規模に溶融する時期もあったと考えられている。
それでも非常に古い鉱物であるジルコンなどの研究から、地球形成後比較的早い時期に液体水が存在した可能性が示されている。
少なくとも「何十億年も乾燥した地球が続き、かなり後になって突然海ができた」という単純像ではなさそうである。
水の出身地をどう調べるのか
水分子はH₂Oだが、水素には同位体がある。
普通の水素は陽子1個。
**重水素(D)**は陽子1個と中性子1個を持つ。
水に含まれるDとHの比率、つまりD/H比は、どの環境で形成された水かを推定する手掛かりになる。
太陽系の異なる場所で形成された天体は、それぞれ異なるD/H比を持つことがある。
そこで地球の海、彗星、炭素質コンドライトなどの隕石、惑星内部由来の試料を比較することで、水の起源を探る。
彗星説は間違いなのか
完全に否定されたわけではない。
彗星の中には地球の海に近いD/H比を持つものもある。
NASA主導の近年の研究でも、木星族彗星の水と地球海水の関係について測定解釈の再検討が続いている。
一方、すべての彗星が地球水と同じ同位体組成を持つわけでもない。
したがって、**「地球の水は全部彗星から来た」**と断定できる状態ではない。
小惑星由来の水
炭素質コンドライトと呼ばれる隕石群には、水を含む鉱物や有機物が豊富なものがある。
その水素同位体比は地球の水と比較的近いものがあり、地球形成時から初期にかけて、小惑星型の物質が重要な水源になった可能性が高いと考えられてきた。
さらに研究は、地球が完全に形成された後にだけ水が届いたのではなく、惑星形成そのものの過程で水が取り込まれていた可能性を示している。
地球内部には海より多くの水がある?
地球内部のマントル鉱物には、水分子そのものではなくOH基などの形で水素を保持できるものがある。
特にマントル遷移層の鉱物リングウッダイトなどは結晶構造中に水を取り込める。
「地下に巨大な液体の海がある」という意味ではない。
しかし地球内部には、地表海洋に匹敵する規模の水成分が蓄えられている可能性が研究されている。
水は地表だけではなく、プレート沈み込みと火山活動によって地球内部と表面を循環している。
水は一度できたらずっと残るのか
水も完全に閉じ込められているわけではない。
上層大気まで到達した水分子は紫外線で分解され、水素の一部は宇宙へ逃げる。
一方で地球内部からの脱ガスや地質循環もある。
地球の水量は惑星形成後から完全に一定だったわけではない。
現在の海は46億年間の供給、損失、内部循環の結果である。
月形成巨大衝突を水は生き残ったのか
地球初期には、火星程度の原始惑星が地球へ衝突し、その破片から月が形成されたという巨大衝突説が有力である。
これほど激しい衝突なら、水などの揮発性物質は大量に失われそうに思える。
実際、どれほど残ったか、衝突後どれほど追加供給されたかは現在も研究対象である。
この問題も、水の起源を「いつ・どこから」の二軸で考えなければならない理由である。
地球に水があることは当たり前ではない
太陽系には水そのものは珍しくない。
彗星、氷衛星、小惑星、月の極域、火星などにも水や氷が存在する。
しかし地球の特徴は、表面に大量の液体水が数十億年にわたって維持されてきたことにある。
水を「持っている」ことと、「海を維持する」ことは別である。
まとめ
地球の水の起源には、単一の答えがあるわけではない。
現在の研究からは、
- 地球形成時に水を含む物質が取り込まれた
- 地球内部から脱ガスによって水が供給された
- 小惑星型天体が重要な水源になった
- 彗星も一定程度寄与した可能性がある
という複合的な姿が見えている。
そして水の出身地を追跡する鍵の一つが、D/H比という原子レベルの「指紋」である。
目の前にあるコップ一杯の水は、単なるH₂Oではない。
その水素原子の一部は、太陽系が惑星へ分かれる以前から存在していた。
私たちが飲んでいる水は、地球より古い物質の歴史を含んでいるのである。
関連記事
参考資料
- NASA Science, “NASA-Led Team Links Comet Water to Earth’s Oceans”
- NASA Astrobiology, “The Origin of Earth’s Water”
- NASA Astrobiology, research on meteorites and early delivery of water
更新履歴
- 2026/9/3:受領原稿を現行の記事スキーマへ変換し、宇宙・地球カテゴリの記事として公開。
次に読む記事
地球はなぜ生命が住める惑星になったのか?
地球が生命を維持できた理由を、太陽との距離だけでなく、水、大気、炭素循環、磁場、プレートテクトニクス、月まで含めて考える。
地球の中はどうなっているのか?――誰も見たことのない地球内部をどう調べたのか
地殻・マントル・外核・内核を、人類はなぜ知っているのか。地震波、密度、磁場、高圧実験から地球内部を推定する方法を解説する。
絶滅はなぜ起こるのか?――恐竜だけではない地球の大量絶滅
背景絶滅と大量絶滅を分け、隕石・巨大火山活動・海洋無酸素化・気候変動などが食物網を通じて絶滅へつながる仕組みを解説する。
体に必要な栄養って何?
人間の体は、何を食べれば生きていけるのか。炭水化物・脂質・たんぱく質・ビタミン・ミネラル・水・食物繊維を、役割と必要性から整理する栄養学の入口。