水を飲めば二日酔いを防げる?――「チェイサー神話」を科学する

身近な疑問を科学的な根拠から整理します。

公開 2026/9/10 確認 2026/9/10 読了 10分 初級 執筆: 知識図書館 編集部

この記事の結論

  • 同じ量のアルコールを飲む条件では、水を追加しても二日酔いが明確に軽くなるとは限りません。
  • 脱水と二日酔いは同時に起こり得ますが、二日酔いを脱水だけで説明することはできません。
  • チェイサーは飲酒速度や総量を抑える助けにはなりますが、アルコールの解毒剤ではありません。

「お酒を飲むときは、同じくらい水を飲んでおけば二日酔いになりにくい」

飲み会などで、一度は聞いたことがあるかもしれません。

お酒の合間に飲む水、いわゆる「チェイサー」です。

確かに、

酒 → 水 → 酒 → 水

と飲んでいれば、なんとなく体への負担が軽くなりそうです。

ところが2026年、大分大学と三和酒類などの研究グループが発表した臨床研究では、意外な結果が報告されました。

同じ量のアルコールを飲むのであれば、途中で水を飲んでも、翌日の二日酔い症状はほとんど改善しなかった。

では、これまで言われてきた

「二日酔いは脱水が原因」

という話は間違っていたのでしょうか。

実はここには、

  • アルコールの代謝
  • アセトアルデヒド
  • 水分バランス
  • 炎症反応
  • 睡眠
  • 飲酒量

という複数の現象が絡んでいます。


そもそも二日酔いとは何なのか

アルコールを飲むと、主成分であるエタノールは主に肝臓で処理されます。

大まかな流れは、

エタノール

アセトアルデヒド

酢酸

最終的に水や二酸化炭素などへ

となります。

この途中で生じるアセトアルデヒドは毒性を持つ物質です。

そのため昔から、

「二日酔い=アセトアルデヒドが残っている状態」

と説明されることがあります。

しかし、現在の二日酔い研究では、それだけでは説明できません。

二日酔いは、血中アルコール濃度がゼロ付近まで低下したころに現れる、

  • 頭痛
  • 吐き気
  • 倦怠感
  • 集中力低下
  • 眠気
  • 気分の悪化

などを含む複合的な状態です。

つまり、

「この物質ひとつが二日酔いの原因です」

とは簡単には言えないのです。


そこで「水」の効果を直接調べた

2026年に『Frontiers in Pharmacology』へ掲載された研究では、健康な日本人成人男性13人を対象として実験が行われました。

参加者はいずれも、アルデヒド脱水素酵素ALDH2の活性型である **ALDH2 1/1 を持つ人でした。

実験はクロスオーバー方式で、

条件A

日本酒だけを飲む

条件B

同じ量の日本酒を飲みながら水も飲む

という2条件を、同じ人が別の日に経験します。

飲酒量は純アルコール換算で

体重1kgあたり1.3g

水は

体重1kgあたり15mL

でした。

例えば体重60kgなら、

純アルコール約78g + 水約900mL

に相当します。

かなりしっかり飲酒した状態です。

研究者は飲酒前から飲酒後15時間まで、

  • 呼気中エタノール
  • 呼気中アセトアルデヒド
  • 頭痛
  • 吐き気
  • 眠気
  • 集中力
  • 顔面紅潮
  • 気分
  • 認知・作業能力

などを測定しました。


結果――水を飲んでもアルコールは早く抜けなかった

結果は非常に分かりやすいものでした。

水を飲んだ場合と飲まなかった場合で、

エタノール濃度の推移には明確な差がありませんでした。

アセトアルデヒドについても同様です。

つまり、

水を大量に飲んだからといって、アルコールの分解速度が速くなるわけではない

ということです。

考えてみれば、これは不思議ではありません。

アルコールを処理しているのは主に肝臓です。

胃や血液に水を追加したからといって、肝臓のアルコール代謝能力そのものが急激に高くなるわけではありません。


そして二日酔い症状もほぼ変わらなかった

さらに、

  • 頭痛
  • 吐き気
  • 眠気
  • 集中力
  • 顔面紅潮

などの自覚症状にも、明確な差は確認されませんでした。

認知・作業能力を調べるDSSTという検査についても、全体として大きな差はありませんでした。

つまり実験条件では、

酒と一緒に水を飲んでも、同じ量のアルコールを飲めば翌日の二日酔いはほぼ同じだった

という結果になったのです。


では「二日酔い=脱水」は間違い?

ここが今回の研究で最も面白いところです。

アルコールを飲むと尿量が増えやすくなります。

アルコールが抗利尿ホルモン(バソプレシン)の働きに影響するためです。

そのため飲酒後には、

  • 喉が渇く
  • 口が乾く
  • 水分不足になる

といったことがあります。

ここから、

アルコール
→ 脱水
→ 二日酔い

という説明が広まりました。

ところが、どうやらそれほど単純ではありません。

2024年に発表された二日酔いと水分摂取についての研究レビューでも、

脱水と二日酔いは同時に発生するものの、かなり独立した現象である

ことが示唆されています。

つまり、

飲酒 → 脱水

飲酒 → 二日酔い

は、

同じ一本の因果関係ではなく、並行して起きている可能性が高いのです。

イメージすると、

                 ┌→ 水分バランス変化 → 喉の渇き
アルコール摂取 ─┤
                 └→ 代謝・炎症・睡眠など → 二日酔い

という方が実態に近いと考えられます。

だから、

水を飲む
→ 脱水症状は改善する

としても、

水を飲む
→ 二日酔いそのものが消える

とは限らないわけです。


二日酔いには何が関係している?

現在の研究では、二日酔いは一つの原因ではなく、複数の生理現象によって生じると考えられています。

例えば、

アルコールとその代謝産物

だけではありません。

飲酒によって生じる

免疫・炎症反応

も二日酔いとの関連が研究されています。

さらにアルコールは睡眠にも影響します。

酒を飲むと眠くなるため、

「酒を飲むとよく眠れる」

と感じる人もいます。

しかし、睡眠の構造や後半の睡眠を乱すことがあります。

つまり翌日の

「だるい」

「眠い」

「集中できない」

という症状には、

単純な脱水だけではなく、睡眠の質の低下も関係している可能性があります。


ではチェイサーは意味がないのか?

ここで、

「じゃあ水なんて飲まなくていいじゃん」

と考えるのは早計です。

今回の実験で重要なのは、

アルコール摂取量が同じになるように管理されていた

という点です。

現実の飲み会では事情が違います。

例えば、

ビール



会話

ビール

と飲めば、

ビール

ビール

ビール

ビール

よりも、結果としてアルコールを飲む速度や総量が減る可能性があります。

実際、研究者らも、

水を飲むことで自然にアルコール摂取量や飲酒速度が減れば、結果として二日酔いが軽くなる可能性がある

と指摘しています。

ここは非常に重要です。

つまりチェイサーの本当の意味は、

水がアルコールを「解毒」していることではなく、飲酒行動そのものを変えること

なのかもしれません。


「水で酒を薄めれば早く抜ける」わけではない

これは日常生活でも覚えておく価値があります。

例えば、

「たくさん水を飲んだから、もうアルコールは抜けただろう」

という判断は危険です。

水を飲んでも、肝臓が処理しなければならないアルコール量そのものが消えるわけではありません。

コーヒーを飲んでも、

シャワーを浴びても、

汗をかいても、

大量の水を飲んでも、

体内のアルコールが魔法のように消えるわけではありません。

アルコールが抜けるためには、基本的に代謝されるまでの時間が必要です。


今回の研究にも限界はある

今回の結果を、

「科学的にチェイサーは完全に無意味と証明された」

と解釈するのも正しくありません。

研究参加者は13人と小規模です。

しかも対象は、

**健康な日本人成人男性で、ALDH2 1/1を持つ人

に限定されています。

いわゆる「お酒を比較的分解できる体質」の人たちです。

女性や高齢者、ALDH2活性が低い人などでも全く同じ結果になるとは、この研究だけからは断定できません。

また二日酔いは、

  • 飲酒量
  • 飲酒速度
  • 酒の種類
  • 食事
  • 睡眠
  • 遺伝的体質
  • 体格
  • その日の体調

など多数の条件に左右されます。

したがって今回の研究から言えるのは、

「一定条件下で同じ量の酒を飲ませた場合、水を追加しても二日酔いを明確には改善しなかった」

というところまでです。


酒造会社が参加した研究という点も確認しておこう

この研究には三和酒類の研究者が参加し、研究資金も三和酒類から提供されています。

アルコールを製造する企業が関わっている以上、利益相反について確認することは重要です。

一方、論文では資金提供元について明示されており、三和酒類は研究デザイン、データ収集・解析、結果の解釈、論文執筆、投稿判断には関与していないと記載されています。

したがって、

「酒造会社の研究だから信用できない」

と即座に切り捨てるのも、

「論文だから絶対に正しい」

と考えるのも適切ではありません。

研究方法・対象人数・再現性を含め、今後の研究と合わせて評価する必要があります。


結論――水は「アルコールの解毒剤」ではない

今回の研究から見えてくるポイントは、

「水を飲むこと」と「アルコールを処理すること」は別問題

だということです。

水を飲めば水分補給にはなります。

しかし、

水を飲んだからアルコールが早く分解されるわけではない。

そして、

同じ量のアルコールを飲むのであれば、水を追加しただけで二日酔いが大きく改善するとは限らない。

一方で、

チェイサーによって飲酒速度や総飲酒量が減るなら意味があります。

だからチェイサーを、

「これだけ水を飲んだから、もう一杯飲んでも大丈夫」

という免罪符にしてはいけません。

むしろ、

酒 → 水 → 酒

と間に水を挟むことで、

そもそもアルコールをゆっくり、少なく飲む。

そこに本当の価値があるのかもしれません。


参考文献

  • Imai H, et al. Water intake during drinking does not alleviate hangover symptoms. Frontiers in Pharmacology. 2026;17:1852528.
  • Verster JC, et al. Alcohol hangover versus dehydration revisited: The effect of drinking water to prevent or alleviate the alcohol hangover. Alcohol. 2024.
  • 大分大学・三和酒類ほか「飲酒時の水摂取は二日酔い症状を緩和しない」

更新履歴

  • 2026/9/10:受領原稿を現行の記事スキーマへ変換し、該当カテゴリへ追加。

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